概要
- 6/1から桑名市プレミアム付き応援食事券が再販売された
- 再販売の何が問題か
- 再販売をさせる理由がない
- 市には予算を決定する権限がない
- 再販売は臨時会前から予定されていた?
- 食事券は余るのに除外される店舗
- 1億5400万円の市税を300店舗で山分けしていいのか
- 情報開示請求をした
- 6月議会に期待
再販売の何が問題か
5/26に桑名市プレミアム付き応援食事券(以下食事券)再販売の発表があった。私たちは産業振興部商工課の担当職員(以下担当職員)、複数の市議会議員、桑名商工会議所、新聞各社などに訴えたが、力及ばず6/1に再販売された。ある有名老舗店舗では早朝から長蛇の列ができていたという。市内の感染拡大に繋がらないことを願う。
再販売の問題点は大きく分けて2つである。
- 再販売をさせる理由がない
- 市には予算を決定する権限がない
断っておくが、筆者が飲食店を経営していれば、食事券を販売する。再販売の案内があれば、再販売もする。当然である。受けられる支援は受けたい。おそらく参加店舗のほとんどは再販売の決定が議会の承認を得ていないとは思いもしないだろう。知らずに加担させられているのである。
食事券の概要と予算
- 4/3に開催された市議会臨時会(以下4/3臨時会)での市長の説明
- 臨時会での高橋潔産業振興部長の答弁
- 筆者が「プレミアム付き食事券発行予算の謎」で算出した数字
上記1-3の情報を基に、まずは食事券の概要と予算をまとめる。
- 新型コロナウイルス感染症を受けての経済対策(1)
- 飲食店の手元資金確保を支援する目的で発行する(1)
- 5万5,000部発行する(2)
- 1,000円券7枚綴りの食事券を5,000円で販売する(2)
- 1冊につき2,000円のプレミアム分を市が負担する(2)
- 各店舗に上限50冊で配布する(2)
- 各店舗で直接食事券を販売し売上が手元資金となる(2)
- 各店舗が食事券で得られる資金上限:25万円(3)
- 各店舗へのプレミアム分負担額上限:10万円(3)
- 販売可能店舗数:1,100店舗(3)
- 予算額は1億5,400万円(2)
- 全額桑名商工会議所への委託費 (2)
- プレミアム分負担額:1億1,000万円(2)
- 業務委託費:4,400万円(2)
- 全額桑名商工会議所への委託費 (2)
予算を丸ごと桑名商工会議所に渡すことや、高すぎる業務委託費については別稿で書くとして割愛するが、4,400万円の業務委託費は明らかに1,100の倍数である。
1店舗あたりの委託費:4万円 44,000,000 ÷ 1,100 = 40,000
この施策は1,100店舗(上限)を対象とした、各店舗に市税を14万円(プレミアム負担額上限10万円+委託費4万円)を投じて、手元資金を25万円確保させるものと言える。
再販売をさせる理由がない
食事券を売れば売るほど市税の負担が増える。50冊以上販売する店舗には、4/3臨時会の説明に対して過剰な支援をすることになる。
応援してくれる人を集め、食事券を売り切ることができた店はうまくいっている。手元資金25万円の確保に成功したのだ。なぜさらに市税で支援する必要があるのか。
市には予算を決定する権限がない
担当職員によれば、食事券の再販売を決めたのは市職員、商工会議所、商工会、観光協会などからなる経済対策会議である。おそらく5/22に開催された第4回桑名市経済対策・生活支援本部会議を指すと思われるが、6/9現在市のホームページで公開されているのは会議概要のみで、参加者も不明だ。日本共産党桑名市議団多屋直美議員(以下多屋議員)によると市議会議員は参加しておらず、後にホームページに公開されているものと同様の会議概要が配布されたとのことである。
会議概要の該当箇所は以下である。
プレミアム応援食事券は、5月7日から販売を開始し、既に売り切れとなった店舗もあり、市民の方や事業者から追加販売を望む声が届いている。6月以降、追加販売を計画しており、販売状況をみながら利用促進を図っていく。
そもそも市民のための施策ではない。飲食店のための施策だ。食事券は市民でなくても買える。都合のいい時だけ市民を持ち出されても困る。販売事業者が追加販売したいのは当然だ。売れば売るほど市税から支援が受けられる。「支援によって手元資金を確保できた店舗が、もっと支援してほしいと言っています。しましょう。」はおかしい。
何より、この会議に予算を議決する権限はない。予算を定めることは市議会の権限である。(地方自治法第96条2項)市は、予算に違反して事務を処理してはならず、予算に基づく事務を自らの判断と責任において誠実に管理・執行する義務を負う。(同第16条、第138条の2)また、予算が余った場合は、翌年度の歳入に編入しなければならない。条例の定めにより基金に編入することもできる。(同第233条の2)
どうしても再販売をさせたいのならば、市長は再度補正予算を市議会に提出すべきだった。そして、食事券を再販売する合理的理由を市議会で説明し、可決されて、初めて再販売させることができたはずである。市(と経済団体)が新たな市税の支出を決め、執行した。これは明らかな越権行為であり、権力の濫用である。
私たちは5/28に食事券特設サイトから桑名商工会議所にも問い合わせたが、6/9現在まだ返事がない。高い業務委託費を払っているのだから、返事くらいはしてほしい。
再販売は臨時会前から予定されていた?
担当職員の主張は概ね以下である。
- 4/3臨時会前から再販売を予定していた
- 県から飲食店営業の許可を受けている市内店舗が1,100店舗
- 除外店舗を除いた800店舗を目安にしていた
- 数字が精査できていなかったため臨時会では説明しなかった
- 予算の増額もしないのに再度議会を通す必要があるのか
- 予算についていちいち議会に聞かなければいけなくなる
- 再販売をする店舗は登録店舗が決めた
- 登録している全店舗に50部か100部の追加をするか尋ねた
- 全店舗が150部売れるよう確保している
つまり「4/3臨時会前から1,100店舗分の食事券は多過ぎるとわかっていたので、その分は再販売する予定だった。数字がわからなかったので余ることも再販売の予定も黙っていた。予算の範囲内で再販売するのに、何がいけないのか。」ということである。「市議会をうまく騙して多めの予算を取れたのだから、私たちの判断で余った予算も全部使う。」と聞こえる。
多屋議員も、絆会派の市議会議員も、4/3臨時会前に除外後の店舗数が1,100店舗と説明を受けたとしている。多屋議員の資料には飲食店1,248店舗から除外して1,100店舗という旨のメモ書きも残っているとのことなので、聞き間違えなどではなさそうだ。議員に説明した市職員と、私たちが話を聞いた担当職員が同一かは不明だが、何らかの錯誤も見受けられる。
いずれにせよ、数字が精査できていなかったなど、言い訳にもならない。「根拠のない数字で立てた予算を市議会に提出し、それが議決された。」という意味であり、「市職員も市議会議員もきちんと仕事をしませんでした。」と言っているに等しい。そもそも、市長が招集した臨時会である。数字が精査できてから招集すれば良い。
市に予算を決定する権限がない以上、いちいち市議会に聞かなければ市税の使い方を変えてはいけない。法律上も、倫理上もである。4/3臨時会前から再販売予定だったなら、そのように説明すればよかった。当たり前のように「いちいち議会に」などと言われると、他の予算もそのように扱われているのだろうと思わざるを得ない。
懸念していた再販売店舗の恣意的な選別はなかったようだが、全店舗に150冊はおかしい。堂々と言われて驚いた。4/3臨時会での説明の3倍である。
市は最少の経費で最大の効果を挙げなければならない。(地方自治法第14条)800店舗なら、プレミアム分負担額の予算は8,000万円でよかった。少なくとも3,000万円以上多い予算を、多いとわかっていて、敢えて説明しなかったということだ。委託費も4万円/店舗なら、3,200万円でよかったのではないか。委託費も1,200万円減らせる。
800店舗分の食事券市負担額:8,000万円 100,000 × 800 = 80,000,000 4万円/店舗で800店舗分の委託費:3,200万円 40,000 × 800 = 32,000,000
余った予算を翌年度の予算か基金に編入しないのもおかしいが、そうであればなおさら、予算は厳しく算出すべきだ。あまりに杜撰かつ不誠実であり、不正を疑わざるを得ない。
桑名商工会議所発行の「利用可能店舗募集の案内(所報KUWANA令和2年5月号付録)」には以下のように書かれている。
登録手続き完了が、初回配布として50セット郵送します。 ※第2回以降の配布も検討しています ※規定数に達した場合は配布を終了します
市議会より桑名商工会議所とその加盟店への説明の方が行き届いている。
食事券は余るのに除外される店舗
担当職員によれば、予算が多過ぎるのは除外店舗が数に含まれていたからである。施策の目的に照らせば、手元資金が確保できた店舗にさらに販売させるより、除外店舗を対象に含めるのが先ではないか。(この場合も当然市議会で再度議決すべきである。)
4/3臨時会で、高橋潔産業振興部長は対象範囲について以下のように答弁している。
食品衛生法第51条に基づく営業許可施設で食品衛生法施行令第35条で定める34業種のうち飲食店営業の許可を三重県から受けた市内の店舗で食事券の取り扱いを希望する店舗を対象といたします。ただしコンビニ・学校給食や社員食堂・パチンコ店のワゴンサービス・パーキングエリアや法人の場合は本店所在地が市外にある場合は除いております。
学校給食、社員食堂、パチンコ店のワゴンサービスの除外はまだ理解できる。利用者に制限がある施設である。しかし、コンビニエンスストアとパーキングエリアは全くわからない。
担当職員によれば「コンビニエンスストアは日用品も売っているため今回は違うかなと言う話になった」とのことだが、生鮮食品やお土産を多数取り扱う店舗やスーパーまで参加している。完全に対象範囲を考えた人、登録を受け付ける人のさじ加減である。恣意的でないと考える方が難しい。議会で除外店舗について質問がなかったことも疑問である。
1億5,400万円の市税を300店舗で山分けしていいのか
新型コロナウイルス感染症によって経済的に影響を受けたのは飲食店事業者だけではない。市民も、他の事業者も、影響を受けていない者の方が少ない。なぜ特定の飲食店ばかりを繰り返し支援するのか。
2020年4月末の桑名市の人口は141,630人、6/9現在の食事券参加店舗は300店舗である。
食事券施策への市民1人あたりの負担額:1,087円 154,000,000 ÷ 141,630 ≒ 1,087(小数点以下切り捨て) 1店舗あたりの予算額:51万3,333円 154,000,000 ÷ 300 ≒ 513,333(小数点以下切り捨て)
市民1人当たり1,087円の市税を投じる予算である。市民は5,000円支払えば2,000円の市税を得られるが、2、3人家族であれば2冊以上、4人家族であれば3冊以上買わなければ元が取れない。当然1冊につき5,000円ずつ支払う額も増える。また、購入者は市民に限られていない。市外の購入者は負担なく2,000円余分に飲食ができる。市民のための施策ではないのだ。
たった300店舗の飲食店で、1億5,400万円もの市税を山分けさせていいのか。各店舗に投じる市税は14万円のはずだが、100冊再販売した店舗にはすでに食事券の市負担額だけで30万円が投じられている。予算説明の倍以上の額である。全て使い切るなら51万3,000円以上を投じることになる。
市税は市民の資産である。4/3臨時会での説明通り、各店舗50冊を上限とした場合、食事券の市負担額上限は3,000万円であり、少なくとも8,000万円の市税が翌年度の予算か条例で定めた基金に編入されるべきである。市税を返してほしい。
市負担額上限:3,000万円 100,000 × 300 = 30,000,000 決算時に返還されるべき市税:8,000万円 110,000,000 - 30,000,000 = 80,000,000
市は予算の調製・執行、市議会は予算の議決と権限が分立していること、市議会で議論して議決すること、地方自治・情報公開に関するさまざまな法などは、全て不正を行われないための仕組みである。それらが守られていない以上、不正が疑われてしかるべきである。市(長)や市議会を監視するのは市民の役目だ。
情報開示請求をした
私たちは5/27に「プレミアム付き応援食事券に関する一切の資料」の情報開示請求をした。また、その際に商工課職員に疑問点のリストも渡した。本日連絡があり、近く担当職員の説明と情報開示を受けられることになった。
開示された情報次第では、住民監査請求を行うつもりでいる。根拠なく過大な予算を立てることも、議会での説明と違う予算の使い方を市が決めることも「公金の違法または不当な支出」に当たると考えている。当然、1億5,400万円もの予算全てを丸ごと桑名市商工会議所に渡すことも、4,400万円もの業務委託費も適切であるか考えねばならない。
6月議会に期待
絆会派の議員は4/3臨時会前に再販売について聞いており、日本共産党桑名市議団の議員は聞いていなかった。絆会派の議員は全員協議会でも説明があったとしているが、定かではない。多屋議員によれば、会派ごとに説明を受けたため、絆会派で再販売について質問等があった可能性があるとのこと。いずれにしても、4/3臨時会では再販売について話されている箇所がない。
絆会派の議員は全員賛成しており、再販売について聞いても4/3臨時会前から知っていたと答えるのみである。市議会で話されていないことを勝手に折り込んで賛成されても困る。絆は市議会最大会派だ。市に対しては、市議会を尊重させるよう努めてほしい。市の言いなりでは市議会の存在意義がない。
6月議会で、多屋議員、桑風クラブ仮屋武人議員(いずれも臨時会で反対)が、食事券についての質問をすると知らせてくれた。厳しい追及を期待している。
出典
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